被害者が責められる社会、韓国「#MeToo」火付け役女性の過酷な闘い《公式》
大塚和成です!
2018年10月21日 10時0分 AFPBB News
韓国で検察庁内部のセクハラについて声を上げた検察官の徐志賢(ソ・ジヒョン)さん(2018年8月7日撮影)。(c)Jung Yeon-je / AFP
【AFP=時事】韓国のセクハラ告発運動「#MeToo(私も)」の口火を切った徐志賢(ソ・ジヒョン、Seo Ji-hyun)さん(45)は、控え目で、ささやくような声で話すが、その行動が韓国女性に与えた影響は大きい。
ソウルの検事だった徐さんは、同僚の父親の葬儀の場で、年上の同僚男性に何度も体をまさぐられた。苦情を訴えると、その後何年も検察庁で嫌がらせを受けるようになった。
最終的に徐さんは今年1月、テレビで事実を公にし、涙ながらのインタビューが放映された。因習に逆らって、自身の経験を詳しく語る徐さんの声は震えていた。
徐さんの行動は、経済や技術が発展した今も、社会に深く染み込んでいる家父長制の価値観が残る韓国で、前例がないことだった。そして徐さんの勇気ある行動を見て、他の女性たちもせきを切ったように自分の体験を語り始めた。
数えきれないほどの韓国女性が、アート、教育、政治、宗教界の権力者たちによるレイプや性的不品行を訴えた。
告発を受けた権力者には、元大統領候補から、世界中の賞を総なめにした一流映画監督、アジア全域で知られる俳優、ノーベル文学賞候補に何度も挙がり高く評価されている詩人などがいた。
徐さんは自分が検察官だったことで、いっそう屈辱的な思いを味わったと、AFPの取材に述べた。徐さんが海外メディアのインタビューを受けるのは珍しい。
「検察官は正義を追求する仕事なのに、非常に恥ずべきことだと感じた。犯罪行為について堂々と意見を述べることさえできなかった」と徐さんは言う。
「テレビで話すことを決めた時は、これ以上耐えられない状態だった。結局、テレビで話したことが社会的自殺に等しい行為になってしまった。辞職して、残りの人生を世捨て人のように暮らす覚悟をした」
■被害者が責められる社会
経済協力開発機構(OECD)の男女賃金格差および管理職に占める女性の割合調査で、韓国は常に最下位レベルに位置している。
韓国女性の多くが職場でのセクハラを経験しているが、被害を受けた女性が声を上げると、「騒ぎを起こした」として厳しく非難され、社会的に葬られたり、解雇されたりすることも珍しくない。
徐さんの一件は、エリートである検察官も例外ではないことを示している。
徐さんは2004年に検察庁で働き始めて以来、日常的に男性の上司や同僚から、言葉や身体的な接触によるハラスメントを受けたと言う。葬式でセクハラを受けた後、上司に相談すると、セクハラの加害者である安兌根(アン・テグン、Ahn Tae-geun)氏に個人的に謝罪させると約束してくれた。だが、謝罪はなかった。代わりに徐さんは懲戒処分を受け、地方の小さな町での役職に降格された。
その背後にいるのは安氏だと、徐さんは疑った。組織内で正式に被害を申し立てたが、検察庁を混乱させたとして叱責されただけだった。ヒエラルキー組織では、その組織への忠誠心が最も高く評価されるのだ。
韓国の検察官のうち30%が女性だが、うち上級職に就いている女性は8%にすぎない。政府が今年実施した調査では、女性検察官の70%がセクハラまたは性的虐待を経験していると答えた。だが、被害に遭った女性検察官の多くは、キャリアが損なわれるのを恐れ、沈黙を守っている。
韓国女性労働者会(Korea Women Workers' Association)が実施したさらに広範な調査によると、職場でのセクハラ被害を訴えた女性の65%近くが、キャリアが損なわれたと回答している。
結婚して、子どもが1人いる徐さんは、事態を公にする勇気をかき集めるのに、8年かかった。
「多くの女性が私の行動から勇気を得たと感謝してくれた。女性たちは、私のことを知り、性的虐待を受けても声を上げられないのは自分のせいではなく、社会のせいだと気付いた」と徐さんは言う。
■「大きな代償」
安氏は昨年、徐さんのセクハラとは関係ない汚職事件で解雇されたが、性的虐待については1年の時効が過ぎていたため、訴えられることはなかった。しかし、安氏は徐さんに復讐するために自分の地位を利用し、徐さんを低いポジションに追いやるよう上級検察官に圧力をかけたとして、職権乱用で告発された。
だが、徐さんのインタビューが放映されると、支援が多く集まった一方で、女性たちからの非難も殺到した。
さらに、徐さんに続いた女性たちの中には、加害者から逆に訴えられる例も出てきた。また、名乗り出るという恥知らずな行為をしたとして、個人攻撃を受けた女性もいた。
元大統領候補、安熙正(アン・ヒジョン、Ahn Hee-jung)氏は、元秘書を繰り返しレイプしたとして訴えられていたが、先月無罪が確定した。裁判では、元秘書の女性が被害に遭った後も仕事を辞めなかったのは、「被害者らしからぬ」振る舞いだと言われた。
さらに、安氏の側近の男性1人が、この元秘書の女性に関する1000件以上の匿名の中傷をインターネット上に投稿していたことも最近明らかになっている。
徐さんも例外ではなく、「公表したことの大きな代償」を払っている。テレビのインタビューが放映されてからは病気休暇を取得しており、検察庁に戻ることはないという。
「だが、自分の行動を後悔はしてない」と徐さんは言う。「これまで長い間、性的虐待の加害者ではなく被害者が、非難され、辱められ、黙っているよう言われてきた。このようなことは、今、ここで、止めなければならない」
【翻訳編集】AFPBB News
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